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2004/08/20

華氏911

華氏911 監督:マイケル・ムーア
「評判のわりにはあんまりおもしろくなかった」とか「単にニュースフィルムつなげただけじゃん。あれがドキュメンタリー?」とか「全然笑えなかったなあ」とか、そういう人も多いんじゃないかな。「コロンバイン」や「ザ・ビッグ・ワン」とはかなり違う作り、ようはムーア自身がカメラと共にアクションを起す、というシーンが中心じゃないので特に日本人観客にはムズかしい内容だったかも。もし興味があってこれから見に行こうと考えている人はムーアの著作「おい、ブッシュ、世界を返せ!」とジョージ・W・ブッシュの独特な言語感覚について書かれた「ブッシュ妄言録」は事前に読んでおいたほうがいいと思います。ただしそれでも頻発されるアメリカのテレビ番組や映画のパロディ、BGMそれ自体がネタになっていて音楽に合わせて編集されていることが旨味な個所などはやっぱり日本人観客には厳しいんだよねえ。単に英語がわからないということ以上に文化の違いはデカいからなあ。本来はアメリカ文化やアメリカ映画が好きな観客にウケても、そうでない客にはなんのことかさっぱりわかんないってタイプの映画なのかもしれないな。
あと日本の客に向いて無さそうなことがもう一つ。なんつーか、例えば悲惨なシーンとかの後にすぐギャグがあったりとか、悲惨過ぎて笑える箇所とか、そういうのを不謹慎と捉える人もいると思うんで、特にムーアが好むジョークはブラックだったり皮肉だったり対象を持ち上げておいて実は貶めていたりだとかが多いから、いわゆる標準的なマジメ日本人だったりする人はけっこう引いちゃうんじゃない。こればっかりは感性の問題だからしょうがないよなあ。該当すると思われる方は、話題作だからといっても無理して見に行く必要は無いと思いますよ。

と、予防線はこのくらいでいいでしょうか。誰に向けてなんのための言い訳を先にしているんだか自分でもよくわかりませんが・・・。でもこういうことを書きたくなっちゃうほど、日本のメディアでの取り上げ方も反ムーアという人たちも、そしてムーア信者だかなんだかしらないけどムーア無条件マンセーの方々とか(とはいえそんな人あまり見かけない気もするんだけどホントにいるのかね?いそうだとは思うけど)どいつもこいつも的外れなことばっか言ってるなあってね、思うんですよ。
だからさあ、先日「ザ・ビッグ・ワン」の感想にも同趣旨のことを書いたんだけど、ムーアの映画はね、娯楽映画なんですよ。しかもこの「華氏911」は今世界中で最も有名な人物の1人、現役アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュを主演とし、今世界中で最もホットな話題「イラク戦争(対テロ戦争)」を題材にして、世界中の観客に向けて(主にアメリカの観客に向けて、ではあるけどね)マイケル・ムーアが作った傑作娯楽映画であって、それ以外の何物でもないんですってば。ムーア自身だってカンヌ映画祭の記者会見で「自分自身が金曜の夜に観に行きたくなるもの」、「映画館を出た後、そしてその何時間後、何日後、何週間後もその映画の話をしてくれるような楽しい映画を作りたいんだ」「くれぐれも言っておくけど、「華氏911」は政治声明じゃないんだ。他の娯楽映画のように映画館で2時間、楽しんでもらいたいんだ」と発言してるもんね。
そしてぼくはこの映画をたっぷりと楽しんだ。旅客機が貿易センタービルに突っ込んだ報を聞かされながらも慰問先の小学校の教室で呆けているブッシュの表情に爆笑しながら背筋を寒い思いをしたし、航空母艦訪問での得意げなブッシュの映像のBGMとして流れた「アメリカン・ヒーローのテーマ」にも苦笑したし、イラクに派遣され死亡した米兵の母親が息子からの最後の手紙を朗読するシーンでは涙が出たし怒りもした。サウジ大使館前で撮影してたら飛んできた大統領護衛官(だったっけ)とのやり取りや「議員の息子をイラクへ」キャンペーンへの同意を議員たちのところへ求めに行くシーンとかワクワクしたし(冗談とかで反戦運動家なんかが口にしたりこともあるけどマジで直撃する人も珍しいよな)、アメリカでも(もちろん日本でもね~)放送されなかった傷ついたイラク人の子ども、イラク人のバラバラ死体、黒焦げの米兵、イラク人に蹂躙される米兵の死体・・・だとかには目を背けたくなったし(背けなかったけど)、ヘビーなロックを大音量で聴きながら次々にイラク人を射殺する米兵のシーン、作戦開始の合図に「ロックンロール!」と叫ぶ米指揮官とかには、ロックンロール愛好家としてとても胸が痛んだ。
スポーツが普段使わない身体の筋肉をほぐし自らの肉体を思うままに操る快感を伴うものだとしたら、娯楽というのは普段使わない喜怒哀楽の感情をほぐし心を豊かにする快感を伴うものだといえると思う。だからぼくの感情をめちゃめちゃに揺さぶったこの「華氏911」は、最高の娯楽映画なんだ。

マイケル・ムーアはアメリカの一市民として(もちろん同時にセレブとしても)、ブッシュが大統領でいることを望んでいないしできることなら11月の大統領戦で負けさせたいと思っている(そしてこんなことは今さらぼくが書くまでもないほど、世界中で有名だ)。それがムーアの主張だし、この映画でも全編を通じてそれを繰り返す。そしてそれのどこに問題がある?ムーアがムーアの作った映画で持論を主張することに、なんの問題もあるわけないじゃんか。この映画を見て楽しんだぼくらもまた自分のアタマで考えて(その際にこの傑作娯楽映画を見てうけた影響をわざわざ排除する必要もまったくない)、行動すればいいだけなんじゃない。
素直に楽しもうよ、せっかくのおもしろい映画なんだからさ。

【「華氏911」感想リンク!】

>>ついに「華氏911」を見る
>>COMETの「ココログ」
>この映画のすごさは、MMの出すメッセージに賛同する人間に対してすら
>「この映画が描くことを信じてはならない」というメッセージを
>送ってくることだと思う。
激しく同意(^^)。
ここに気付くかどうかで評価は全く変わってくるんだろうなと思う。

>>「華氏911」を見る
>>オレdays
>この3年間、ありとあらゆる911を目にしたけど、
>この映画みたいにあれを描いたのは初めてだと思う。
そうなんですよね~。
いろいろと解釈は分かれるところなんですが(そしてムーアの意図も一つじゃないでしょうね)、
ぼくは「既に世界中で繰り返された映像」と
「今まで(あまり)報道されてこなかった映像」(=イラク人、米兵の死体に代表される)
との対比のための映像処理だったんじゃないかと思います。
それにしても・・・迫力ありすぎでした(^^;。映画館ならではだもんな~。

>>華氏911
>>21st Century Comedy
町山智浩関係コメントへのリンクが便利(^^)
>ここまでひどい状況を笑いにしてポップに見せるところがムーアのえらいところだと思っています。
ぼくはついムーアについて語るときに“ロックンロール”という言葉を使用してしまいますが、
たしかに“ポップ”でもいい、というかその方がわかりいいのかもしれない。

>>『華氏911』を見てきました
>>アジア海外駐在員便利帳
シンガポールでのリアクション。
むむむ・・・なるほど。でも日本の観客もそんなに変わらないかもしれないな~。
ムズかしいのはたしかだったし。

>>華氏911にObjection
>>日々是人生
トラバ返し・・・ってこういうことを指す言葉なのか?
少々納得のいかないTBだったんで、コメントで疑問を述べさせてもらいました。
すぐに、ぼくとしては納得のいくレスを頂けたんで、こちらからもリンクさせてもらいます。
TBってのもいろいろムズかしいもんだねぇ。

>>「自由が燃える温度」について。
>>FKPG!
>9/11以降の出来事で、マスコミが伝えないことだけをつなぎ合わせた映画、
>それが華氏911なのではないかと思う。
なんだか、知ってるつもりになっていたことを、改めて凝縮して見せられた、という気がぼくもします。
ぼくらはいつでも自分のアタマで考えてるつもりになっている・・・ことの根拠を
意外と知らされていない、いや、知ろうとしていないんだなあということを
たとえばムーアの映画を見ると、すごく感じちゃいますよね。

>>「華氏911」ノススメ
>>水川青話
いわゆる感想とは違うアプローチが楽しい(^^)
これに一つでもあてはまる人は見た方がいいよ、という「華氏911」のオススメになっています。

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映画」カテゴリの記事

コメント

夏さん、こんにちは。ご紹介ありがとうございました。こちらからも、(当方初の)トラックバックを打たせていただきました。

私が観た映画館では、外国人率が高かったせいか、かなり笑いが起きてましたが、やっぱり70年代アメリカの代表的TV西部劇「ボナンザ」とか、「太陽にほえろ!」的位置づけの警察ドラマ「ドラグネット」とか、元ネタを知らないと、おかしさが伝わらない部分はかなりありましたね~。

あと名前や肩書きのテロップなしに出てくるブッシュ政権幹部とか、有名なテレビキャスターとかも、知らなければ「だれ?」だし。2000年大統領選以降の時事ネタをまるっきり知らないで観るのは、ちょっと辛いかもしれないし。

でも、たまたま隣に座った若いお嬢さんがそれで、前半は彼氏に「ねえ、あれはなに?」とかヒソヒソとうるさかったんだけど、イラク駐留米軍の生々しいビデオ映像になると、小さく悲鳴をあげたり、ぐすんぐすんしたりして、入り込んでました。

だから、何事も知らないよりは知ってたほうがいいけど、知らなくても伝わる人には伝わる映画かな、と。下手に自分はなんでも分かってるつもりになってる頭でっかちほどタチが悪いってのは、この映画にもあてはまるみたいだと、ちょっと自省しました。

長文ごめんなさい。

投稿: YK | 2004/08/22 13:23

YKさん、どうもです(^^)トラックバック&文中リンクありがとうございました。

>「太陽にほえろ!」的位置づけの警察ドラマ「ドラグネット」とか
そうなんですよね。
あれを日本向けに翻案すれば、
ムーアの「捜査ってのはこういうもんじゃないの?」というナレと同時に、「太陽にほえろ」の例のテーマとタイトルバックが登場。
走るゴリさん~聞き込みする山さん~走るロッキー~聞き込みする山さん~走るテキサス~聞き込みする山さん・・・とつながるって感じでしょうか(^^)
あとブリトニーがブッシュ支持のコメントするシーンなんかも
辻ちゃん加護ちゃんが「小泉さん、かわいいから好きっ。」なんて言ってるのと同じなわけで。
と、いちいちアタマで置き換えつつみてたので何カ所か笑うタイミングを逃してしまった(^^;。

>隣に座った若いお嬢さんが~
>小さく悲鳴をあげたり、ぐすんぐすんしたりして、入り込んでました。
いい話ですね(^^)ムーアの映画は「娯楽映画」だからこそ
そういうパワーを持ち得ていると思います。
そしてもちろんそれがムーアの狙い。

>下手に自分はなんでも分かってるつもりになってる
>頭でっかちほどタチが悪い
ぼくもそれは反省中です・・・(--;


投稿: 夏 | 2004/08/22 13:58

> ムーアの「捜査ってのはこういうもんじゃないの?」というナレ> と同時に、「太陽にほえろ」の例のテーマとタイトルバックが登> 場。走るゴリさん~聞き込みする山さん~走るロッキー~聞き込みする山さん~走るテキサス~聞き込みする山さん

(爆笑)。
その後は、アラブの民族衣装を着たビンラディン家の人を、例の狭い取調室に座らせ、ゴリさんが「しらばっくれるな!」と両手で机をバン!とたたくと、後ろで壁により掛かって腕を組んでいたヤマさんが、「まあまあ」とたしなめ、「カツ丼でも食いますか?」となぜか用意してあったどんぶりを差し出す……とかですか(カツ丼、イスラムに反してるけど……ってそういう問題では)。

投稿: YK | 2004/08/23 11:16

>カツ丼、イスラムに反してるけど……
わはははは。
心理的、宗教的な揺さぶりをかけるわけですね。
さすが「落としの山さん」だ。

投稿: 夏 | 2004/08/23 18:57

初めまして。華氏911の感想はBLOGで沢山ありますが、
「ヘビーなロックを大音量で聴きながら次々にイラク人を射殺する米兵のシーン」について語っている人は少ないですよね。
洋楽好きの私としてはココが一番ショックでした。
トラックバックさせていただきました。よろしくお願いします。

投稿: driftwood | 2004/08/25 20:24

>driftwoodさん
どうもです(^^)

>洋楽好きの私としてはココが一番ショックでした
というようなことが行われているというのは知ってましたが、
実際に目の当たりにすると・・・やっぱりショックだよなあ。

ボサノバやシャンソン聴かせたら撃つの止めるかね(そうはいかない^^;)

投稿: 夏 | 2004/08/26 03:19

昨日、華氏911を観てきました。哲学的は部分と悲劇的な部分、そして、ブッシュを痛烈に批判する部分など、つぎからつぎに展開するんで、疲れました。少し、飛躍的なところが多く、一貫性というか、プロットの曖昧さが、何より気になりました。しかし、ブッシュ批判だけは、全編を通して流れていて、まあ、共和党嫌いなひとには、痛快な映画でしょう。

投稿: 高橋  孝吉 | 2004/09/11 13:47

>高橋孝吉さん
コメントどうもです。

>つぎからつぎに展開するんで、疲れました。
なるほど。
ぼくはあの情報量(と映像量)をかなりテンポよくまとめるもんだなあと感心しながら、
見てたのですが、まあたしかに疲れる方もいるかもしれませんね。

高橋さんへのレスという点からは少し外れるのですが、
ぼくはムーアの映画はかなり“ロック”だと思ってるんですよ、
それもそんなに大人っぽくない(ガキっぽいということだ)
ハードロックやパンク、ミクスチャーなんかの。
なので、批判の一部に見られる「ドキュメンタリーだったら、NHKのものなどの方が優れている」などの意見に対しては、そもそも“つくり”が違うわけですから、
たとえば普段メロディアスな音楽を好む人にヒップホップやダブを聞かせたら面食らうように、
「慣れと好みの問題なんじゃない?」と思います。

>まあ、共和党嫌いなひとには、痛快な映画でしょう。
上記の例えからいうと、
ぼくは「華氏911」のような表現が好みだし慣れたリズムだったので、
別に「共和党嫌い」ではありませんが(米の選挙は直接関係ないわけですし)、痛快な映画でした。

投稿: 夏 | 2004/09/13 14:07

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